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100人のプロが選んだソフトウェア開発の名著 君のために選んだ1冊

2012-07-17 00:00:12

翔泳社より発行される『100人のプロが選んだソフトウェア開発の名著 君のために選んだ1冊』という本で1冊選んで書きました。

100人のプロが選んだソフトウェア開発の名著 君のために選んだ1冊

100人のプロが選んだソフトウェア開発の名著 君のために選んだ1冊 | 翔泳社

私が選んだのは『Weaving the Web: The Original Design and Ultimate Destiny of the World Wide Web』です。

Weaving the Web: The Original Design and Ultimate Destiny of the World Wide Web

Weaving the Web: The Original Design and Ultimate Destiny of the World Wide Web | HarperBusiness

原稿を公開してよいとのことだったので、ここで公開します。

仕事でWebアプリケーションを開発している、後輩のWindows系技術者に勧めたい

アーキテクチャの重要性を再認識。英語で読んでね。

英語の本でごめんなさい。「Webの創成」という題で日本語訳されているんですが、そちらは入手困難ということもあり、勉強になるかなと思って原著をあえて選びました。でも難しい本ではないから心配しないでいいです。表現はちょっとだけ論文っぽいけど読みにくくないし、難しい専門用語は出てこないし、200ページとそこまで長くないし、ざっくり読むにはちょうどいいのでは?と思います。それにペーパーバックだから普通の技術書よりお手軽かな、と。ボールペンや蛍光ペンでどんどん書きこみながら読めるし。分からない単語や表現が出てきた時は、その都度辞書を引いて日本語訳するのもいいけど、その場では印をつけるだけにしておいて、文意を推測しながら読む(あとでまとめて答え合わせする)のがよいです(電子書籍で入手できるとまた読み方が変わるかもしれないけど)。まずは通して読む!どうしても内容が理解できない時はWikipediaを活用しましょう。「ハイパーテキスト」「ティム・バーナーズ=リー」「World Wide Web」のページを眺めておけば、英語に挫けずに読み進められるかなあと思います。

この本は90年代のWWWの歴史書です。WWWよりも前からインターネットもハイパーテキストもすでに存在していたわけだけれど、インターネットとハイパーテキストを組み合わせ、URIという概念とともにWWWを設計し、最初のWebサーバとWebクライアントを実装したのはバーナーズ=リーです。さっきWikipediaのことを書いたけど、WWWは当初からWiki的な情報共有と情報更新を想定して作られていたことがわかります。その後、Mosaicが人気を博し、W3Cが生まれ、NetscapeとMicrosoftの競争が起こり、XMLとセマンティックWebへ繋がっていきます。この本を薦めるのは、こういう話を教養として知っておけというつもりじゃなく(世の中には得意げに昔話をしたがる人もいるけどそういうのは無視しよう)、優れた技術によって世界が変わっていく瞬間って単純にわくわくする面白さがあると思うからです。

そして、歴史を踏まえて現在を見ることもまた面白くてためになります。この本が書かれたのは1999年だからもう10年以上前のことです。その後、IE6が覇権を握り、モダンブラウザの登場と共にJavaScriptの重要性が最認識されるようになり(実はこの本にはJavaScriptの記述がそもそもありません)、1998年に設立されたGoogleはWWWの最重要プレイヤーになりました。ポータルサイトの凋落とソーシャルサービスの台頭。そういうことは書かれてないけれど(と言うか、ここ10年の動きはリアルタイムで知っているだろうから、本で学ぶ必要はないよね?)、この本には古びない価値があります。

この本を読むべきだと思ったのは、デザインやアーキテクチャの重要性を再認識できるからです。WWWはオープンで一極集中しないようデザインされたので、長年にわたりスケールし、文字通り世界規模のシステムになっています。そんなWWWの設計方針とその意図はものすごく参考になります(同様の観点でさらに技術的に突っ込んだ良本に「Webを支える技術」があります。そちらもおすすめなので、あわせてぜひ)。セマンティックWebの考え方はソーシャルサービスやHTML5にも息づいています。それから、デザインには前提条件と限界があることについても考えさせられました。WWWを脅かすのは寡占そのものではなく、それによって情報がコントロールされてしまうことだとしています。この危険性はWWWと付き合っていく上で忘れてはならない視点だと思います(今でもよく問題になってますよね)。この本はいわゆる技術書ではないけれど、技術者として大いに影響を受けた本なので紹介しました。おすすめです。